辞書を使わない

撮影 浅井岳史 さて、前章までをお読みになられた方は、英英辞典以外は単に学校の勉強をしっかりやれと言っているだけだと思われると思います。そのとおりです。英語には王道はありません。ただし、ここから先が違います。辞書に対する姿勢です。エピソードを一つ。高校のときに生徒に辞書を引かせて「二秒以内に引け」と言う先生がいました。私は今そのやり方には真っ向から反対します。なぜなら私は辞書は引かない方がいいと思っているからです。考えてみてください。私たちは日本語を覚えるのに何回辞書を引きましたか?私は小学校のときに辞書を引く授業で数回引いただけです。ではどうやって日本語の単語を思えてきたのでしょうか。「民主主義」「貿易」、こういう言葉は辞書ではなく、出てきたときに社会の先生が日本語で説明してくれたり、自分でそれが出てきたときの本の文脈で覚えてきたことともいます。そこが私のポイントです。実際に今の私の仕事と生活をするのにおそらく一万語以上の英単語を知る必要があると思いますがそれらをすべて辞書で引いていてはまったく追いつきません。それに辞書で引いたところで頭には残りません。単語の意味は辞書を引くのではなく、文脈から理解するのです。

例を示しましょう。次の単語の意味がお分かりですが。単語が一つだけ出てきたらわからない方は多いと思います。でも、心配は不要です。なぜなら実際に単語が一つだけ存在することはほとんど無いからです。

inedible

では、次の文で出てきた場合はお分かりでしょうか。

I found the food inedible.

もし、前章で私が述べた文法を理解していれば、inedible は形容詞で食べ物を修飾していることがわかるでしょう。したがってそれは「おいしい」かもしれないし「まずい」かもしれないですが、「民主主義的な」ではないことがわかります。状況によってはそれで十分でしょう。それを訳さないと次に読み進めないという癖があったらそれを抑えて次の文に進んでください。もしそこに、I could not even try. とあれば何か悪いことであるとわかります。もうそれで十分です。会話でも Really, then I don't want to go to the restaurant. と受け答えまでできます。で、果たしてどんな意味なんだろうと考えながら半年もすれば忘れてしまうでしょう。もしその間に同じ単語が出てこなければ、その単語はそれほど重要なものでは無いのかもしれません。でも、もし何か別の機会に、The clam chowder was inedible, because it was too salty. とあれば、ああ「食えない」ってことだとわかります。

これを単語だけで訳していると意味のわからない単語があると先に読めなくなってしまいます。英英辞典を使う最大のメリットは単語の説明を英語で読むために、前後の文からそのわからない単語を推測できる能力が養われることです。英英辞典で意味を引くようになると気づくと思いますが、そもそも文章自体が文法という規則をもとにつながったパズルみたいになっており、それ自体が英英辞典のようなものなのです。したがって英英辞典を使っているとそのうちに辞書さえ使わなくても文章が読めるようになります。それがどれだけ素晴らしいことか予想できるでしょう。

私は大学入学後多少英英辞典を使いましたがしばらくして辞書はほとんど使わなくなりました。今は一年に一回引くか引かないかです。単語がわからなくて文章が読めないということはなくなったばかりか、読めば読むほど辞書を引かずにボキャブラリーが増えていきます。アメリカ人の取締役から語彙力をほめられることが何回もありました。和英辞典を使うのは例えていうなら、切花をいっぱい買ってきて庭をかざるよようなもので、すぐに枯れてしまうのでいつも買い足さなければいけません。英英辞典を使うというのは花を庭に植えるようなもので最初は大変かも知れませんが根付くと毎年のようにきれいな花を咲かせるようになります。

もうおわかりでしょう。早いうちから英英辞典を使えというのはその下準備で「本当の英語力」を身につける土台だったわけです。