プロジェクト・マネージャ 浅井岳史の「スタンフォード便り」
Vol.1 日本語製品の品質向上に日々奮闘
Hyperion Solutions Corporation の東海岸の拠点、スタンフォード事業所は、ニューヨークのグランドセントラル駅から電車でほぼ一時間、コネティカット州に入ってまもなくのStamfordという街にあります。マンハッタンへの通勤圏でもあるこの街は、急速に発展したダウンタウンと、自然の美しい郊外とからなり、Xerox、GE Capital、UBS Warburg など多くの大企業の拠点にもなっています。アメリカの典型的なハイテク企業同様、この事業所も森に囲まれ、鹿や野うさぎが構内に生息するのんびりした環境の中に、約500人の従業員が製品開発やマーケティングに従事しています。ちょうどこの原稿を書いている今頃は10月末のハローウィンを前に、木の葉が色をつけ始め、窓の外には素晴らしい紅葉を眺めることができます。
私はこの事業所の最初の日本人として、半年間東京で勤務した後、全米で開発される日本語製品の品質向上のために、8ヶ月前に赴任して来ました。Hyperion の本社機構はすべてカリフォルニア州、Sunnyvaleにありますが、日本を含めた海外市場向けの製品の翻訳を管理するローカリゼーション部門は、ここスタンフォードにあります。Hyperionの場合、カリフォルニア、フロリダ、ジョージア、トロント等製品ごとに開発拠点が散らばっていますが、それらすべての事業所での日本語製品の開発をサポートするのも私の仕事の一つです。当然ながら日本語が読めない、したがって文字化けと正しい日本語の区別もつかないエンジニアたちと、電話やネットワーク越しに、あるいは出張して、マニュアルやUIの翻訳を検証し、製品の品質テストを行います。
もっとも苦労するのは、いかに優秀なエンジニアであっても、やはりダブルバイトの特殊さが分からない人が多いことで、それがバグをつぶす労力や、テスト期間に影響してしまうことです。でも、笑える話もあります。先日、あるエンジニアから「大変だ、文字列の中に変な四角とEが反対になった文字が入っているからすぐに見てくれ」との電話がかかってきて、急いでいって見てみたら、何ということはない、カタカナの「ロケーション」でした。すこしは日本語に敏感になってきてくれたと喜ぶと同時に、私の孤軍奮闘はまだまだ続くと確信しました。
先月11日の惨事では、ここにもかなりの衝撃と緊張が走りました。近くの公園からは海越しに火山かと思うほどの白煙をあげるマンハッタンが一望できました。スタンフォード事業所では、ヨーロッパ出張中に足止めを余儀なくされた社長と緊急連絡を取り、献血、募金を始めとした救済運動を企画し、惨事でオフィスを失ったお客様に対して、事業所の一部を提供することを決定しました。
ここの冬は早く、来月にはもう雪が降り始めます。寒くなれば、ニューヨークでの復旧作業は困難さを増すでしょう。炭疽菌騒動やアメリカの報復戦争の行方は依然不透明です。マンハッタンの喧騒からすこし離れたここスタンフォードで、一刻も早く事態が収拾することを願いつつ、日本語製品の品質向上に取り組む毎日です。
「スタンフォード便り」として、2001年12月、ハイペリオン日本法人の季刊誌「View」に掲載